「霧丸、止めろ!!」


それは、長年聞き慣れた声だった。
そいつの頭に、僕が振り下ろした鉄パイプが刺さる。

そいつの頭が割れ、血が流れ出す。
それでも奴は、退かなかった。

手を広げ、大の字になって、
もう一人の彼をかばっていた。
まさに仲間を攻撃から守る特技の仁王立ちそのものだった。

「俺の邪魔をするの?」

「霧丸・・・悪かった。もう辞めてくれ・・・な?」

僕は止めに入った奴・・・相方に聞く。

「才能がない奴、向いてない奴は弾かれる。それだけの話。僕は自分が他は向いてないと思ったから、これ以上求められるなら他所に行こうと考えているだけだよ」

藤沢は努力してない。
向いてないって逃げている。
わかってるさ。そんなの。

それでもいい。

やったって時間が無駄になるだけ。

「おめえは確かにドジでせっかちで余計なことまで考える性格だ。
そのせいで傷つくことだってあるだろう。

でも『藤沢って子が色々と気にかけてくれていた』とか『藤沢さん、頑張ってね!』とか『ドジで余計なお節介』を名指しで評価してくれている客だっている。人には誰にでも得手不得手があるし、トラウマだってある。

お前がブラックで散々な目にあったからキッチンにトラウマがあるってのは俺だって十分理解している。
でもいつまでも逃げてたら、霧丸は・・・俺は霧丸が村人Aに成り果てるのを見たくはない・・・」

「見たくないなら見なきゃいいだろ!!他人のお前に俺のことなんて関係ない!!」

そうだ。俺は『努力しないでも成り上がれた天才』だった。
経験者として今の職場に入り、未経験者とは違って即戦力になれた。

「それとも、努力しない俺を嘲笑ってるのか?お前の甘えだといいたいのか」

「違うさ…」

そういって、相方が僕を抱いた。

「霧丸……ごめんよ………ずっと隣にいたのに、守ってやれなくて…」

その声は、嗚咽まじりで、いつもの冷静さがなかった。

「俺だって霧丸殺しの一人だ…霧丸が酷い目にあってる時も、俺は何もできなかった…結局俺は霧丸を追い詰めることしか出来なかった…しかも霧丸がただ死んでいくのを歯向かわなかった自業自得だって嘲笑って…本当にすまなかった…
俺がもっと霧丸を大事にしていれば…」

おいおい…いい年こいた男が泣くなよ…情けねえ…イケメンが台無しじゃねーか。

「俺が怖い。確かにそうだろうな…俺はお前をずっと追い詰めていた存在だから…
でも霧丸…お前はもう、いつまでも街勇者じゃいられない。

街から出て世界を見ろ…

だから俺は勧めたんだ。忍たま以外の作品も見ろって。
色々と世界を見ないと、自分はそこしか知らないだけになる。

何度全滅しても、何度所持金を減らされても、ボスを倒さないと話は進まないし、
スライムだけ倒してもレベルは上がらない。それだけ。
でも、最初の街は雑魚だからって言って切り捨ててもダメ。それは勇者失格だ。

なるなら世界の勇者になるか、
逃げるかのどっちかになるしか道はない。

逃げてもいいとは思うけど、いつか回り込まれて逃げ出せない日が来ることは覚悟しておいたほうがいい」

「だからそうなったのは…俺は悪くねぇ!!」

「それが言いたかっただけか」

「俺が言ったんじゃない・・・俺は無理だって言った!コイツが言ったんだ!!悪いのはコイツだから俺は悪くない!!やっぱり殺させろ!!」

僕は相方を突き飛ばし、
もう一人の僕の頭をかち割った。

「素直に言うさ。向いてないから辞めるって。もう何も望まないで生きるさ。どうせ俺は、死んでるし、そのうち本当に死ぬんだから…」


誰かが地下室の階段から降りてくる音がした。


「ふ〜ん…派手にやっちゃったねー」

「うぅ・・・酷い光景だ…」

「霧丸…アンタって子は全く……」

なんだお前ら3人まで…
こんなことをしてとか、また虐待かってお叱りに来たのか?
自分自身を虐待して何が悪い?
綺麗事だけの羅列を僕が嫌うのは知っているだろう?

「あ?いいだろ別に」

嫌なら見るな。

それだけだ。

「それで…気は済みました?」

瑠璃が、僕の斜め後ろから問いかけてくる。

「まぁね…」

「相方は、頭を壁にぶつけて気絶しているだけのようだねー」

長女が寄り添う。

「ならよかった」


「そっちの霧丸はもう完全にダメみたいだけど…どうせこの霧丸もゾンビだから生き返るってパターン?」

「いや、生き返らない」

僕が首を振った。

「・・・霧丸さん、こんなことしても、霧丸さんの現実が良くなることはないんですよ…」

「わかってる」

と言った途端、瑠璃と長女が、歌を唄いだした。
曲名はなんと、勇気100%・・・
この空気でそれって・・・挑発してるのか!?あ!?

当然、僕は耳をふさぐ。

藤沢霧丸以外には手を上げたくないし…

「やめろおおおおおおおおおおおその歌はあああああああああ」

逃げようにも、鍵がかかって逃げられない。
長女はそれでも歌うのを辞めない。

「鍵をお探しですか?」

瑠璃がいつの間にか後ろにいて、鍵を持っていた。

「それを渡せ!さもなければ…」

「ダメです。鍵なんて必要ないんですから…」

そういって瑠璃は懐からペットボトルを出し、僕に蒔いた。
この匂い…

「おい待て!これって…ガソリ…」

「霧丸さんはどうせ私に殺されるんですから…大嫌いな勇気100%をお経がわりにして、苦しみながらね・・・」

そういって瑠璃は・・・火をつけた・・・

待ておい!そんなことしてタダで済むと思ってるのか!?

熱い
熱い
熱い

・・・

ただ身体を焼かれる痛みにもがき、目が覚めたら・・・



コタツの中で、僕は横たわっていた。

どうやら、眠ってしまったそうだ。


「なんだ夢か…」

「どうしたんですか?」

瑠璃が惚けた顔で聞いてきたので、
僕は事情を説明した。

「それは今『逃げる』を選択した場合の行く末です。全てから見放され、
孤独に苛まれ死ぬ運命です。

もしも霧丸さんが『たたかう』を選択するなら…私は、応援しますから…
これもまた、試練かもしれませんね」

「やけに詳しいな・・・お前の仕業か?」

「それは秘密です」

瑠璃がくすりと、笑った。

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